2012年7月14日土曜日

『職業としてのAV女優』を読んで――なぜAV女優に美人が増えたのか


非合法なのに撮り続けられる理由


 『職業としてのAV女優』(中村淳彦、幻冬舎新書)を読んだ。BLOGOSでもレビューを書いている方がおり、その記事もかなり注目されたようだ。たしかに本書は面白かった。
 まず新鮮だったのは、「女性を確保して本番の撮影現場に斡旋するのは非合法だからである」と言い切っていることだった。
あぁ、やっぱりそうなのか……。
 さらに本書は、(モデルと斡旋、本番撮影は)見方によっては売春防止法に抵触する“公共の福祉に反する行為”で、あらゆる労働関連法に違反していると考えられると指摘している。言われてみればそうかもしれないが、よくよく考えてみたことがなく、意外と納得してしまった。

ではなぜ、非合法なのに撮り続けられているのかというと、
AVは警察関係者を確保した審査団体のフィルターを通して「合法」の建前を整えてから流通されるので、AV業界全体がソープランドやパチンコと同じく、今のところ「必要悪」として成立しているからである。(p56)
という。これまたなるほどだ。

 本書を読む以前に、AV女優にはランクがあって「単体」「企画単体」「企画」があるということくらいは聞きかじっていた。だがここではそれぞれの具体的な違い、ランクアップ、ダウンの仕組みなどについても詳しく解説されていて興味深い。

転換点は98年の『ルームサービス 小室友里』

 AVは多くの男子にとって身近な存在でありながら、製作の仕組み(制作ではなく)や業界発展の歴史など、知られていない(であろう)ことが結構ある。私は38歳だが、アラフォー以上の年代の男性がここ数年のAVについて感じているのは、
 「一昔前と比べてAV女優が可愛く、きれいになった」
 ということではないだろうか。昔だって可愛くきれいなAV女優はたくさんいたのだろうが、今はそれこそAKB48などのトップアイドルグループに居てもおかしくない(AKB48メンが可愛いかどうかはさておき)くらいの子がたくさんいる。
 人前で裸になるのは恥ずかしいし、できれば避けたいものだろう。偏見と言われるのを承知でいえば、AV女優になりたくてなっている人は少ないのだろうと思っていた。だから、それこそ可愛い子がなっていたりすると、よほど変わった性癖の持ち主なのか、稼がなければいけない事情があるのか……そんな見方をしていた。
 だがここまでキレイで可愛い子ばっかりだと、そんな古い見方であろうことは容易に想像がつく。業界は明らかに変わっているのだ。だがなぜAV女優のクオリティは上がったのだろうか。業界は変わったのだろうか。
 この点について本書は、変化の歴史についても解説している。変化の始まりについてはこう説明している。
AVの変貌は98年、ユーザーが本当に欲しい物を実現化させてセル流通させた「ルームサービス 小室友里」(99年にわいせつ図画として摘発)の発売に始まり、07年8月にビデオ倫理協会が強制捜査を受けて摘発されたところで終わっている。約10年程度を費やして変化を続けたAV業界は、人材や法人の多くが入れ替わり、それ以前とはまったく異なる別の世界になってしまった。(p122)
 この後、AV制作に関わる人たちがどう変わったか、スタッフや裏方など関係者が変わったことによる影響などについても書かれており、ここも興味深い内容だ。本記事のサブタイトルにも書いたが、なぜ美人が増えていったのかについても本書には納得の説明が記されている。

 また本書は、AV女優に対して、「過酷な性搾取をするAV女優という職業が女性を壊している」といった論調があったと書く(p92~)。しかし同時に「それは大きな間違い」と断じている。本書によればむしろ逆で、
居場所のない病んだ女性が、困難の中で生きているうちに何かのきっかけでAV女優に漂着したとする。いざAV女優になてみると撮影現場では絶対的に必要とされる主役であり…(中略)…誰かから必要とされたことで社会性が生まれて症状が治癒したり、重い症状を背負っていてもAV女優として活躍している間はおさまって…(p93~)
 ということらしい。
 だが問題はその後だ。AV女優は一般の仕事のように経験やスキルを活かせて継続性のある仕事ではない。一度「自分は必要とされている」と感じた女優が、仕事がなくなる、つまり必要とされなくなることが耐えられなくなる。だからそうした症状が以前よりも悪くなってしまう、ということはあるようだ。
セックスをするAV女優という仕事が精神を蝕むのではなく、その居場所を喪失する不安や焦りが精神状態を悪化させるといえる。(p94)
 と筆者は解説している。

 このほかにも、「へぇ」「なるほど」と思った記述は何か所もあった。一部抜粋すると、
一部のNPO法人に「売春を貧困女性のセーフティネットに」という動きがあり、アウトローの専売特許であった性風俗への斡旋やモデルプロダクション業務に、将来的にNPO法人が乗り出してくる可能性がある。(p116)

ビデ倫審査作品と自主規制(ビデ倫以外)作品の大きな違いは、ヘアとアナルの露出である(p126)。
 といったところだろうか。

 一気に読み進める中で、筆者が最後どう締めくくるのかが次第に気になった。
 「おわりに」で筆者はこう書いている。
現在AV女優のほとんどは仕事を「刺激があって楽しい」と言う。その言葉に嘘はないが、そんな異様な刺激がなくては生きていけないカラダになってしまったら、その先の人生を普通にいきていくことができないかもしれない。個人的に、生涯AVや風俗に関わることがない人生の方が幸せであると思う。(p236)
 !!!

 「名前のない女たち」シリーズを手掛け、数多くのAV女優を取材してきた筆者が最後に、「関わることがない人生の方が幸せであると思う」と結んでいる……。どうだろう、このやるせなさ。複雑ぶり……。この職業の、この業界の業の深さ(?)に思いをはせずにはいられなかった。